そのルートが登られたのは1987年、ちょうど30年前になる。(新版 関東周辺の岩場 参考)
車で奥多摩駅に近づいてくると北側の山の中腹に木々の間から顔を見せる岸壁、見事な前傾フェースに高度感のある氷川屏風岩C峰がある。
氷川屏風岩は大きくA峰、B峰、C峰と岸壁が分かれ(他にフクロウ岩、イタチ岩がある)、C峰にたどり着くにはきついアプローチをこなさなくてはならない。
急峻な道のりを経てまずはA峰、B峰の崖下にたどり着き、そこから少し右に回り込んだところにフィックスロープがある。そのフィックスロープをたどってさらにきつい坂をロープを握りこんで急登するとC峰の真上に上がる。そこからC峰のスラブとフェース間からさらにフィックスロープが垂れ下がっており、高度感と冷や汗を感じながら危険な下降をこなす。
そこまでしてやっとたどり着く、氷川屏風岩に一旦の区切りをつけるためのライン『低脂肪 5.13b』があるC峰だ。アプローチからして初心者お断り、拓かれたラインに媚びはない、関東の中でも最高峰の前傾フェース。
今年に入り何度か氷川屏風岩に通い、ビョーバー(5.13b)・シュラナオババの涙ダイレクト(5.13c)と登り、一区切りをつけるために最後に登るのが初登されてからちょうど30年が経つ『低脂肪(5.13b)』である。
トップロープで練習中。奥多摩町の全景が見渡せるロケーションも抜群。
ラインの長さはおよそ10m未満、ボルトの本数は3本、1本目は危険なためプリクリップする。パートとしては①スタート〜2ピン目、②2ピン目〜3ピン目、③3ピン目〜終了点と3パートに分かれる。
最も頭を悩まされるのは最初の①。強度としても①パートが最も高く、ムーヴの複雑さも相当難しい。おそらく初めてこの課題を取り付く時は序盤のあまりの難解さに絶望を感じるだろう。ホールドも色々あり、実力と身長によって選択するシークエンスの細部が異なる。
強度は高くないが、繋げる時に最も墜落の可能性が高い②パート。①のムーヴを解決できても強度の高い①をこなした後にランナウトする②は精神的にも肉体的にもつらい。3ピン目直下の墜落の恐怖を感じながら遠いカチを取りに行くところはかなり刺激的。
3ピン目のカチを取り、クリップしてからの③、そこからはしっかりとムーヴを練習しておけば落ちることはないが、しっかりとシークエンスを組み立てなければならず、終了点までのランナウトもかなり怖い。
11月27日 2日目
ビョーバー13bを登った今年の3月ごろに初めて一便だけ手をつけている、その時に大まかな全体像は把握していた。半年以上時間が経ったこの日に久しぶりに決着をつけようとトライを試みる。久しぶりに登ってみてムーヴの難解さに頭を悩ますも細かな動きの微調整を繰り返しながら練習しただけでこの日を終えた。
11月29日 3日目
核心の①と②をさんざん練習して1日あけた3日目。③パートも微調整をしてトップロープでまずは練習する。するとトップロープでそのまま終了点まで繋げることができてしまった。これはいける、レッドポイントが見え、1時間以上レストしてリードを試みる。
何度も練習した核心をこなし、右腕と背中に疲れを感じながら2ピン目以降のパートに突入する。3ピン目直下の遠いカチ取り、ヒールで乗り越してスタティックに左手を出すが一瞬1cmほど届いていなかった。息を止めもうひと伸び、カチに届いた。ダラダラとレストしてる場合ではない。クリップしてすぐさまムーヴに移る。手を下げ血を下げつつムーヴをこなし、ガバを掴み終了点へ。目の前のことに集中できていたためランナウトの恐怖はそこまで感じなかった。
厳しいムーヴを繰り返した後の終了点までたどり着いた時の充実感は素晴らしいものだった。ホールドが欠けないかぎり時間が過ぎてもそこには色褪せぬラインがずっと残っていることは岩場の素晴らしいところだ。
氷川屏風岩には今の所3本の5.13代のルートがある。
ビョーバー5.13b、シュラナオババの涙ダイレクト5.13c、そして低脂肪5.13b。3本ともそれぞれ互換性がない全く質の違うクライミングが楽しめる。
氷川屏風岩はアプローチこそつらいが、つらいアプローチをしてもあまりある充実感を感じることができるルートばかりだ。5.13以下のルートも素晴らしい課題が多い。
アプローチのゆるいエリアがたくさんあってなかなか機会を得るのが難しいかもしれないが、私の友人たちが2年ほど前から私費でリボルト・新ラインなど整備してくれたので是非氷川屏風岩に赴いてほしい。
今回も動画を撮影してただいた。
高度が上がるにつれ、奥多摩の素晴らしい山々と空気の澄んだ美しい夕焼け空が見渡せるが、超我な方が一緒に映ってちょっとシュールな絵面に。いい景色が割と台無しだが、これはこれでシュールで面白い。